『猫モチーフの本格ハンバーガーで石巻を元気にしたい』
事例25
鰻割烹 八幡家
阿部 紀代子 さん
八幡家さんが開発した「まきのねこバーガー」
石巻産、県内産の素材をふんだんに使用。
バンズの猫の顔は全て異なる表情をしており、どんな猫が届くかはお楽しみ。
『猫モチーフの本格ハンバーガーで石巻を元気にしたい』
事業者:鰻割烹 八幡家 阿部 紀代子 さん(石巻市)
主な販売先:予約注文によるテイクアウト(2020年11月現在)
6次産業化への取組:震災後の石巻を元気にすべく、石巻市内のパン店と連携し、田代島の猫をモチーフとしたバンズの「まきのねこバーガー」を開発。
取組後の成果:コロナ禍においても、SNS等の効果により当初想定していた観光客、インバウンドだけでなく、猫好きの方にも情報が行き届き注文が入っている。
※石巻市6次産業化・地産地消推進センターを、以下より「6次化センター」と表記いたします。
6次化センターへのご相談のきっかけ
『“猫”で石巻を元気に!』
以前から、自身の飲食店事業の中で「猫」をモチーフにした商品展開を考えていました。その中で、6次化センターの支援員をされている方と出会い、ご相談させていただくと、やりたいと考えていることが「6次産業」にあたると知り、6次化センターをご紹介いただきました。
皆さんもご存じの通り、石巻市田代島は、猫が多数暮らしている「猫の島」として、日本国内外から観光客が訪れる、言わば猫好きの聖地として有名です。また、世の中猫ブーム。この世の中の流れと、石巻の1つのアイコンともなっている猫をうまく絡め、震災後の石巻を元気にすべく、猫をテーマにした商品開発に取り組みたいという思いから6次化センターに相談しました。
阿部さんと6次化センターの取り組み内容
『構想から形へ』
石巻を元気にするアイテムとして考えたのは、田代島に訪れるインバウンドの方に喜んで頂ける本格ハンバーガー「まきのねこバーガー」でした。この猫モチーフという点は、インバウンドの方はもちろん、国内の方にも楽しんでもらえるコンテンツでもあると思っていました。イメージした完成形は、猫型のバンズにこだわりの石巻産金華銀鮭のマリネや、仙台牛100%のパテなどを挟んだもの。開発にあたっては、いわゆる「映え」も意識しました。6次化センターの支援を通して、支援員の方には試作したものを、繰り返し試食していただき、都度アドバイスを頂きました。外国文化を含めたインバウンドの方の好みなど、私だけでは知りえない情報がたくさんあり、そういった視点から支援員の方より多数助言して頂いたのは、取り組みを進める上で非常に心強く感じました。
また、バンズにおいては、ご縁あって石巻市内のパン店「パーラー山と田んぼ」さん(事例21に記事あり)に作っていただくことになりました。山と田んぼさんには、様々なパターンのバンズを試作していただき、工夫の末、猫の鼻やしっぽがついた猫型のバンズが完成しました。バンズに描かれている猫の顔は、作り手の方が1つ1つ描かれています。今日はどんな表情の猫が届くのかと、私も楽しみにしていますが、作り手の方々も楽しんで作られているとのことで、非常に嬉しく感じています。やはり楽しみながらやる、これが一番です。
「パーラー山と田んぼ」さんでのバンズづくり
1つ1つ丁寧に猫の顔を描いていく。
バンズを含め、バーガーの全体像がある程度固まり、次に支援員の方からは商品情報の発信戦略についてアドバイスを頂きました。これまでSNSは利用したことがなかったのですが、インバウンドをはじめとした観光客の方をターゲットにするということで、Facebookを活用することにしました。そして2019年10月にプレ販売を行い、本格的なお披露目会を猫の日にちなんで2020年2月22日に行いました。この頃はまだコロナウイルスの感染が大きく広がる直前だったので、何とかご来場いただいた方々に試食していただくことができ、「まきのねこバーガー」を世にお披露目することができました。
6次産業化に取り組んだ成果
『SNS効果により思わぬ広がり』
まだ販売開始から間もなく、このコロナ禍もあるため、想定していた動きはできていないものの、地道に販売し、お客様には喜んで頂いています。Facebookからは、少しずつ認知度が上がり、最近では「猫好き」という視点から猫バーガー関連の投稿を見つけてくださる方も増えています。また、石巻では「いしのまきねこふぇす(石巻マンガロード)」、「CAT ART展(石ノ森萬画館)」など猫関連のイベントも多数開催されており、そこに訪れた方々からもご注文頂くなど、少しずつ「まきのねこバーガー」が浸透してきていると感じています。
また、ヴィーガン(完全菜食主義)の方にも対応しようと考え、「ミヤギシロメ(宮城県発祥の大豆品種)」を使用したパテを挟んだバーガーをラインナップに加えたところ、意外にも日本人の方が興味を持ってご購入くださっています。こういった今までにない商品にみなさんが注目してくださるというのも、面白くまた新鮮でした。(「販売商品への想い・こだわり」に写真あり)
少し違った観点ですが、震災後ずっと応援してくださっている落語家の林家たい平師匠より「バンズに描かれた猫の顔が全て違うのであれば、1つ1つ写真を撮っておくと、それだけでアートになるよ」とアドバイスいただいたことをきっかけに、以降400枚以上猫バンズの写真を撮りためてきました。お客様の手に商品をお届けする前に、全て私が写真を撮ってから送り出しています。これまで送り出した猫たちの写真は、目に見える成果として見返すことができるので感慨深いです。いつか、この写真たちをアートとして並べるのも楽しみです。
6次産業化への取り組みで苦労する点
『“6次化”の考え方、そして理想のバンズ探し』
「6次化」とは何なのか?それがまだ広く浸透していないのではないかと思います。私自身、取り組もうとしていたことが「6次化」に当てはまるとは認識しておらず、支援員の方との出会いで「6次化」なのだと知りました。もしかしたら、私と同じようにやりたいことはあるが、それが「6次化」に該当し、また6次化センターのような機関のサポートを受けられると知っている方は少ないのではないでしょうか。
自分一人で商品開発をしようと思うと、当然それまでの経験則をベースに動いてしまい、そこから先のことはなかなか知り得ません。6次化センターや支援員のような専門家の方との出会い、またその方々のノウハウをもととしたアドバイスやサポートを受けられること、これらは6次化の取り組みを進める上で非常に大きいのではないかと思います。
また、今回の「まきのねこバーガー」を開発する上で特に苦労した点は、バンズ選定でした。開発を始めた当初の試作は、バンズで仙台牛100%のパテを挟んだものの、具材がしっかりしているあまりハンバーグを食べているような感覚に…。バンズの存在感が薄れてしまっていたのです。ハンバーガーという形で、しっかりとこだわり具材を受け止めることのできるバンズ探しには本当に苦労しました。そこで6次化センターに相談すると、先にも述べた石巻市内のパン店「パーラー山と田んぼ」さんをご紹介いただきました。こういったご縁もあり、両者の考え方を共有しながらバンズの試作を繰り返しました。そして辿り着いたのが、玄米米粉を使った食べ応えのあるバンズでした。これであれば具材に負けることなく、丸ごと石巻、宮城を楽しんで頂けるバーガーになると確信しました。同じ石巻市内の事業者同士で協力し、こういった商品開発ができる運びとなり、とても良い流れだと感じました。
販売商品への想い・こだわり
『まるごと石巻・宮城を楽しめるハンバーガー』
地元石巻・宮城の食材をふんだんに使ったことがこだわりです。「まきのねこバーガー」のラインナップは、全3種(仙台牛100%パテ、金華銀鮭のマリネ、みやぎしろめ(大豆)のパテ)ですが、例えば金華銀鮭のマリネは、金華ブランドの銀鮭を焼いてマリネにしたものを挟んでいます。これはテイクアウトという性質から、しっかりと火が通っていて、かつおいしく金華銀鮭を食べて頂くには…と考え、揚げたものや南蛮漬けにしたものなど、多数試作、試行錯誤した後に、最も適した食べ方だと判断した形です。また、先にも述べた山と田んぼさんの存在感ある玄米米粉バンズ、石巻の特産の1つでもあるトマトなど、ハンバーガーに石巻のテイストを詰め込みました。ちなみに、バーガーに添えるポテトに使用している塩も石巻産です。「まきのねこバーガー」を通して、多くの方に石巻を感じていただければと思います。
「まきのねこバーガー」ラインナップ(全3種)
左より「仙台牛100パテ」、「金華銀鮭のマリネ」、「みやぎしろめ(大豆)のパテ」
肉、魚、畑のもの。様々な味を味わえる。
6次産業化を検討している方々に伝えたいこと
『やりたいことを6次化センターと共有する』
自分で「これは6次化に該当しない」と制限してしまうのではなく、まずはやりたいことをざっくばらんに6次化センターに相談することをおすすめしたいです。私も今回、思いがけないことが6次化センターのサポートの対象であったと知りました。これにより、一人で描いていたイメージが、支援員の方、6次化センターとの共有物に変わり、またそれを自分以外の第三者と進めていくことで、テンポよく進めることができたと感じています。素晴らしい構想を持っていても、一人で制限してものを考えることはあまりにももったいないです。ぜひ新しいチャレンジを考えている方には、気軽に6次化センターに相談してみてほしいです。
※6次産業化とは…1次産業としての農林漁業と、2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、農山漁村の豊かな地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組。これにより農山漁村の所得の向上や雇用の確保を目指す。(出典:農林水産省HP)。これに基づき、地域の特色を生かし、ロゴやパッケージデザインにもこだわった、消費者から選ばれる商品づくりもこのうちに定義される。