『規格外野菜を利活用して、農家自慢の味を広く届けたい』
事例20
日野 正江 さん
日野 正江 さん
日野さんが作った「糀シリーズ」。青じそ(左)とピーマン(右)。
糀と具材(ピーマン、青じそ等)を煮込んだ商品。
『規格外野菜を利活用して、農家自慢の味を広く届けたい』
事業者:日野 正江 さん (石巻市)
主な販売先:各種イベント出店
6次産業化への取組:栽培している野菜の規格外品を有効活用した新商品の開発。
取組後の成果:商品に磨きをかけることができた。参加したイベントやセミナーで、他の事業者や関係団体との繋がりを持つことができ、商品作りにもその繋がりがいきている。
※石巻市6次産業化・地産地消推進センターを、
以下より「6次化センター」と表記いたします。
6次化センターへのご相談のきっかけ
『イメージを形にしたい』
もともと農業を営んでおり、栽培過程で出る規格外の野菜、またそれの廃棄はつきものでした。しかし、これに違和感があり、何とかこの廃棄する野菜を有効活用できないか、という思いからこの商品づくりは始まりました。
6次産業化にチャレンジし始めた当初は、惣菜の加工許可がある施設を借りて、現在の商品の基礎となるものを加工、生産していました。この頃から、イベントなどに出店して販売を行っていたところ、当時復興庁の職員の方が面白い商品だということで目に留めてくださり、いろいろお話しさせていただく機会を得ることができました。その中で、この商品に対する思いや、こんな商品にしていきたいというイメージをお話しさせていただいたところ、「石巻市の6次化センターに相談してみては?本格的な商品化に繋がるかもしれませんよ。」とアドバイスをいただき、6次化センターの門を叩きました。
日野さんと6次化センターの取り組み内容
『資金調達面で可能性があることが分かった』
当初から作りたい商品イメージはありましたが、それを実現するための資金面には不安がありました。そこで6次化センターに相談したところ、「石巻市6次産業化・地産地消推進助成金制度」(*1)をご紹介いただきました。助成金制度を活用したことのない私にとっては未知の話でしたが、「上手に活用すれば、これは目標の実現に向けて大きな一歩になる!」と、光が見えたと思いました。
しかし、これまで生活してきた中で助成金の申請書類を書くという経験はありません。「初めての書類作成。難儀するな…。」と思っていましたが、6次化センターからのアドバイス、レクチャーがあり、無事申請書類を書き上げることができ、助成金も活用することができました。
(*1)「石巻市6次産業化・地産地消推進助成金」とは
石巻市では、地域資源の高付加価値化を図るため、1次産業・2次産業・3次産業を営む事業者がネットワークを形成して取り組む事業に対し助成金を交付します。対象事業は、①新商品開発、②販路開拓、③施設整備です。③施設整備については、総合化事業計画の認定を受ける必要があります。
6次産業化に取り組んだ成果
『「商品」としてのレベルを上げることができた』
もともと商品イメージがある中始まった6次産業化でしたが、始めた当初は「これまでこうやってきた」という勘のようなものを頼りに調理・加工を行っていました。いわゆる「我が家の味」と言った感じです。しかし、これでは毎回味のばらつきが出てしまいます。家庭の味はそれも良いところの1つかもしれませんが、「商品」となると別です。
そこで、しっかり「ピーマンは何グラム、青じそは何グラム、唐辛子は何グラム…」とレシピを作ったのです。これにより、以前より味に均質性を持たせることができました。また容器も当初は「こんな感じかな?」といった明確なものが無いまま採用していましたが、やはり「商品」として多くの方の手に取っていただくことを考えると、容量や輸送面から再度容器の検討が必要となりました。そこで現在は下のような瓶詰め商品としています。
開発当初の「糀シリーズ」のパッケージ(左)。
改良し、現在は瓶詰めにしている(右)。
また、商品のレベルアップだけでなく、この6次産業化に取り組んだことによって、人脈が広がったことも大きな成果の1つです。6次化センター主催のチャレンジショップに何度か出店していますが、その都度出店した人たちとの繋がりができたり、JAいしのまきと6次化センターの共催の商品開発セミナーへの参加の際も、他の取り組みをしている方との交流が広がっています。
特に、商品開発セミナーではJAいしのまきの方と直接繋がったことで、商品の加工にあたりJAの調理室を貸していただくことができ、自身の6次産業化の取組みとしても大きく前進しました。今後もこういった人との繋がりを大事にしながら、そこから様々な可能性が広がることを期待しています。
今は、試作段階から改良を加え、「商品」としてレベルアップしたものを製造できる段階まできました。今後はステップを「販売」に移し、現在のイベント出店だけでなく、店舗での常設販売や、販路拡大など、少し先の段階も見据えて6次化センターの支援員の方々と相談して形を作っていきたいです。
JAいしのまきの方との繋がりがきっかけで、
設備が整った調理室(JAいしのまき)を借用して加工を行うことができた。
6次化センター主催のチャレンジショップ(@いしのまき元気いちば)での販売の様子。中央が日野さん。
6次産業化への取り組みで苦労する点
『何もない所からの始まり』
私は農家の主婦です。当然ですが、これまで「商品」の加工、販売を行った経験はありませんでした。作りたい商品イメージはあったものの、経験、資金、加工する場所含め、ゼロベースからのスタートでした。はたしてこれで本当にできるのか?できないのか?という段階の話でした。仲間と一緒に、商品化に向けて話し合いを重ねる中では、「これでは儲からないのではないか?」という意見が出ることもあり、「もう、1人でやるべきか…。はたまたやめてしまおうか…。」と気持ちが折れそうになったこともありました。思い返すと、この「やりたい思い」を行動に移す段階が一番苦労したように思います。
しかしその後は、先にも述べた通り、6次化センターの支援員の協力もあり、資金調達も助成金活用という方法でクリアし、少しずつ前進してここまできました。
また、商品づくりそのもので感じている苦労する点は、「味の基準をどこに置くか?」、また「素材となる唐辛子自体の辛さにばらつきがある点をどうクリアするか?」ということです。
前者については、“辛味”の感じ方は人それぞれ違うので、私たち作り手がこのくらいの辛さで良いと思っても、食べた人にとっては辛すぎたり、甘すぎたり…。この味の基準をどう定めていけば良いか、今後の検討課題の1つです。また後者は、みなさんも経験があるかと思いますが、唐辛子はその個体によって“辛味”が強いもの、弱いものがあります。そのため、レシピ通りに決められた量を使っても、辛さが一定でないことがあります。これをレシピでどうカバーするか、といった所も研究していかなくてはなりません。
とは言え、課題があるということは、「商品」としてまだまだ成長の余地があるということなので、前向きに捉え、課題を解決し、レベルアップを図っていきたいです。
販売商品への想い・こだわり
『規格外野菜の利活用、家族の食卓に』
我が家では以前から米や野菜を作っています。相手は作物ですから、当然出荷できない規格外のものや、豊作で取れすぎてしまうものも出てきます。特にピーマン。これはできる時はものすごい量が取れます。もちろん、多く取れすぎるもの含め規格外で出荷できないような野菜は、極力自宅等で消費するよう工夫しますが、あまりにもその量が多い場合は、残念ながら廃棄せざるを得ません。この流れにずっと疑問を持っていました。
そこでいつしか、「この野菜を捨てないようにするには?」、「野菜を大量に使うことのできる料理はないか?」と考えるようになり、この「糀シリーズ」の開発を計画しました。みなさんにこの「糀シリーズ」を手に取っていただく際は、実はこんな背景があることも知っていただけると嬉しいです。
また、「糀シリーズ」と呼んでいるように、この商品は糀を使用しています。糀とピーマンや青じそをメインにし、唐辛子を合わせています。一般的には、味噌と野菜を合わせる商品が多いのですが、私たちは当初から「糀」を使うとコンセプトを決め、他の商品との違いを出したのがポイントです。また、加工の過程で糀と具材を一緒に煮込むのですが、それにより非常にコクのある味わいに仕上がっています。
おすすめの食べ方は、やはり何と言っても温かい白いご飯に乗せて食べる、これが一番です。いつもの食卓に置いていただき、ご飯のお供として、またおにぎりの具材や、一味違うおでんに使う味噌の代わりとしても使っていただける商品です。晩酌を楽しんだお父さんの〆のご飯に合わせていただくのもいいですよ。
この他にも「こんな使い方をしたら美味しいのでは!?」というアイディアがいくつかあるので、今後はいろんな食べ方を試してみて、「こう使うと美味しいですよ!」という食べ方提案も積極的にやっていきたいです。
日野さんおすすめの食べ方。
「糀シリーズ」(写真は「青じそ」)をあつあつのご飯に乗せて。
6次産業化を検討している方々に伝えたいこと
『思いはあっても踏み出せないのは皆同じ。思い切ってまずは相談してみて。』
6次産業化において、あんなことをやってみたい、こんな商品を作りたいと、胸に秘めている人は、実は多いと思います。でもそれを実現しようと考えた時、障壁になるものがあり「こんなこと、やはり自分にはできない…」と、なかなか一歩を踏み出せない人もまた同じくらいいるのではないかと思います。みんな同じです。
そんな時はまず気軽に6次化センターに相談してみて欲しいと思います。自分が考えていた以外にも、実はいろんなやり方があることが分かり、計画の実現に一歩近づくことが出来るかもしれません。私の場合は、6次化センターに相談したことをきっかけに助成金の活用という方法を知り、これまで思い描いていたものを形にできるという自信にも繋がりました。
また、先にも述べたように、この助成金申請の一連を通して、普段は書かないような申請書作りに取り組んだことから、これまでの経験では知り得なかったことも勉強することができたと思っています。まずは相談してみること。その先に自分だけでは知り得なかった視界が広がっているかもしれませんよ。
日野さん(中央)、商品開発の仲間 菅原さん(左)
今回、糀シリーズの開発にあたり連携したJAいしのまきの山内さん(右)