『石巻地域に、自らの力で所得向上に取り組める農業者育成の基礎づくりをしたい』
事例10
JAいしのまき 営農部 販売促進課
山内 順一 さん
『石巻地域に、自らの力で所得向上に取り組める農業者育成の基礎づくりをしたい』
事業者:山内 順一 さん (石巻市)
全国農業協同組合(JAいしのまき):販売促進課
6次産業化への取組:石巻地域の農業者の人材育成の基礎づく
りのためのセミナーや、農水産物のPRの
場となるイベントを企画したい。
取組後の成果:6次産業化による商品開発プロセスを学べ
るセミナーや、首都圏のバイヤー向けに
石巻の農水産物をPRするためのイベント
を開催した。
※石巻市6次産業化・地産地消推進センターを以下より「6次化センター」と表記いたします。
6次化センターへのご相談のきっかけ
『農業者が個人で6次産業化による商品開発を行えるようになるための、基礎的知識や技術を習得する場を設けたい』
6次産業化とは、1次産業者が生産だけでなく加工・製造、販売までを手掛けることで所得向上を望めるプロセスです。
石巻地域の農業は、農業従事者数の維持や増強、農産物の生産量増加や質の向上が課題でした。
これらの課題を解決するためには、ある程度の費用が必要ですので、農業者個人の所得増加を考慮しなければなりませんでした。
そこで、6次産業化による商品開発や農産物の加工、販売までの一貫した指導をしたいと考え、農業者の人材育成のためのセミナーや、他地域へ石巻産の農水産物をPRするイベントを開催したいとの思いから6次化センターへ相談しました。
相談のきっかけには、課題解決という思い以外に、私達が6次産業化について働きかけることが、農業者へどこまで理解され、それぞれの行動に繋がるのか検証したいという思いもありました。
6次化センターへの支援希望内容
『石巻地域の農業者に、6次産業化の理解を深めるセミナーに参加していただくことで、JAブランドの新商品開発事業に参加する農業者を増やしたい。』
山内さんの相談内容は、
①石巻地域の農業者を対象に、商品開発から販売までのノウハウを学べるセミナーを開催したい。
②石巻産の農水産物をPRできるイベントを開催し、石巻地域の農業の更なる活性化に役立てたい。
ということでした。
山内さんと6次化センターの取り組み内容
『石巻地域の農業者を対象とした商品開発セミナー開催と、東京都内のレストランで石巻産の素材を活用した料理の試食会を行った』
平成28年度には、6次化センターの協力により、商品開発セミナーや石巻産の農水産物PRのための東京でのシェフミーティングを開催出来ました。
商品開発セミナーでは、市場ニーズや食品製造の基本を座学で学び、具体的な商品のイメージ設計やブラッシュアップ案等をワークショップで提案していただきました。
また、実際の食品加工現場での製造に関わる一連の流れと衛生管理方法の視察や、展示商談会のシミュレーションをし、バイヤー対応等について実践を通して学んでいただきました。
6次化センターには、講義カリキュラムの構築や講師の調整を主にサポートしていただきました。
シェフミーティングでは宮城県漁業協同組合さんと連携し、石巻産の農水産物を首都圏へPRするため東京都内で店を構えるオーナーやシェフに集まっていただき、石巻産の食材を使用したフルコース料理の試食会を開催しました。
6次化センターには、シェフや会場の調整や、シェフを石巻まで呼んでいただき使用する食材の試食会を行っていただきました。
シェフミーティングで活用された石巻産の食材
6次産業化に取り組んだ成果
『セミナー開催のサポートをしていただき、農業者の人材育成の方向性が見えてきた』
おかげ様で、平成28年度に続き平成29年度も商品開発セミナーを開催することが出来ました。
セミナーを通して、農業者が望む商品の傾向を把握することが出来ました。
また、参加者が6次産業化に取り組むイメージをつかむために私達がするべき指導の方向性を見出すことができました。
これまでは所得向上の方法や自身の農産物を活用した商品開発に悩まれていた農業者の方々が、6次産業化を行うことに意欲的になっていただければこれ以上嬉しいことはありません。
私達JAいしのまきの数少ないスタッフだけでも実行できるプログラムを組んでいただき、6次化センターには大変感謝しております。
6次産業化への取り組みで苦労する点
『セミナー参加者との目的共有が大変だった』
平成28年度の商品開発セミナーでは、主催側の私達と参加者との間で目的の共有を行うのに苦労しました。
商品開発セミナーの最終目的は、参加者が自身の生産する農産物を商品化し、実際に展示商談会に出展した場合のシミュレーションまでを行うことでした。
私達は、石巻地域だけでなく首都圏でも販売できるような商品または商品企画が出来上がることを想定していましたが、参加者は直売所での販売を想定しており、目指す方向がかけ離れていたのです。
限られた時間の中でセミナーを行わなければならず、座学と実践に多くの時間を費やしましたが、参加者との目的共有にも時間を割くべきだと学びました。
平成28年度の商品開発セミナーでは、直売所での販売を想定した商品の展示商談会シミュレーションが行われた
販売商品への想い・こだわり
『JA石巻ブランドの商品のこだわり』
平成29年度の商品開発セミナーで生まれたネギドレッシングとトマトケチャップは、JAいしのまきの「いしのまき農家のキッチン」ブランドの商品として直売所で販売します。
地元の農業者が家庭で食べている料理を、農業者自身が商品にしていくことをテーマにしていますので、地元の食材を活用し、できるだけ添加物を使用せず子どもたちも安心して食べられる商品づくりを目指しています。
本音をいうと、石巻地域をPRするため大型スーパーなどで販売したいのですが、そうなりますと農業者の利益が少なくなりますので、私達が直売所へ直接卸して販売することにしました。
現在、石巻市6次産業化・地産地消推進助成金(*1)の新商品開発事業の申請に向けて6次化センターと調整中です。
地元の加工会社と連携し、商品劣化防止技術の獲得に向けて取り組んでいます。
今後は「いしのまき農家のキッチン」ブランドの商品ラインアップを増やすとともに、各商品へ品質保持のための工夫を凝らしていきたいと思います。
平成29年度のセミナーの様子
*1「石巻市6次産業化・地産地消推進助成金」とは
石巻市では、地域資源の高付加価値化を図るため、1次産業・2次産業・3次産
業を営む事業者がネットワークを形成して取り組む事業に対し助成金を交付します。
対象事業は、①新商品開発、②販路開拓、③施設整備 です。
③施設整備については、総合化事業計画の認定を受ける必要があります。
『平成29年度の商品開発セミナーへの思い』
平成29年度の商品開発セミナーは平成28年度の経験を活かして、参加者が商品企画を個人で行うのではなく、一つの商品テーマを全員で共有することで参加者同士が連携して取り組むことにしました。
指導側と参加者側が目的を共有できていれば、後は農業者の自由な発想で幅のある商品開発に繋がると思い、あえて私達から参加者が生み出した発想の軌道修正等は行いませんでした。
また、最初から首都圏を考慮したヒット商品を企画しようとすると、人数の少ない個人の農家では受発注作業が間に合わないなどの課題が後々生じやすくなるため、目標を「地元で愛される商品」に設定しています。
まずはセミナーという小さな環境からではありますが、商品開発から販売までの仕組みを理解していただき、地元で商品を定着させることから始めて、将来的には首都圏への販売へ結び付けていただければと思います。
今後も加工支援事業として農業者の自立を促す支援を行っていきます。
新たな取組みとしては、飲食店との連携による商品開発も企画しています。
積極的に私達のセミナーに参加していただき、農業者自身が自分で行動を起こすことに繋げていただきたいと思います。
6次産業化を検討している方々に伝えたいこと
『6次産業化は地域の方々と関わる術として活用できることを理解し、今後の石巻地域の農業の発展に繋げるためにも、積極的に取り組んでほしい』
今回の商品開発セミナーを通して分かったことは、6次産業化は地域の人が連携する環境を構築できる術だということです。
農業者の方には、6次産業化を通して所得や生産性の向上を図り、更には原材料としての生産物の質の向上に取り組んでいただきたいです。
これから6次産業化に取り組みたいと考えていても、6次産業化とは何なのかがつかめず踏みとどまっている方も多いかと思いますので、今後も周知と指導に力を入れいくことが、私達の役目だと思います。
石巻地域の第一次産業には、まだまだ地域を活性化させる力があるはずなので、その力を発揮するためにも、6次化センターのように6次産業化に取り組みたい方へ柔軟な支援を行うことができる機関が今後も必要だと思います。
JAいしのまき 販売促進課 山内 順一さん