『オーストラリア式牡蠣養殖法で生産した牡蠣を直接販売するために、牡蠣小屋と直売所を開業したい』
事例8
牡蠣蔵 koo
千葉 浩希 さん
『オーストラリア式牡蠣養殖法で生産した牡蠣を直接販売するために、牡蠣小屋と直売所を開業したい』
事業者:千葉 浩希 さん (石巻市沢田)
漁師:牡蠣養殖
主な販売先:漁協共販、市場出荷
6次産業化への取組:石巻地域で初めてオーストラリア式牡蠣養殖法を取り
入れ、牡蠣の付加価値向上を図る。また、販路拡大の
ため自宅に隣接した牡蠣小屋と直売所を開業する。
取組後の成果:牡蠣小屋では、自らが生産する牡蠣や漁師仲間から
仕入れた石巻産の魚介類を飲食提供できるように
なった。また、直売所では殻付き牡蠣を量り売りで
直接販売できるようになった。
※石巻市6次産業化・地産地消推進センターを以下より「6次化センター」と表記いたします。
6次化センターへのご相談のきっかけ
『オーストラリア式牡蠣養殖法に取り組み牡蠣の付加価値向上に着手したが、販売方法の多角化に悩んでいた』
牡蠣の生産だけならば船さえあれば私一人でも行えますが、牡蠣を出荷するための殻剥きは私一人では到底出来ません。
一日に処理する量が多く、現在は両親の手を借りて殻剥きを行っている状況ですが、それでも作業が追いつかないほどです。
両親が急用で手が放せなくなるだけでも人手不足となり、作業効率が大幅に低下してしまいます。
人手不足という課題に対し、殻剥きに人手をかけられなくとも収入を得られる手段が欲しいと家族で話し合い、殻付き牡蠣を直接販売する方法として、牡蠣小屋と直売所の開業を考えました。
また、生産する牡蠣の付加価値向上のため、石巻地域で試験的に行われていたオーストラリア式牡蠣養殖法に取り組んでいました。
こちらも殻付き牡蠣の販売方法と同様に、牡蠣小屋と直売所での販売を行いたいと考えていました。
そのような時、販路開拓に向けて6次産業化に取り組んでいる漁師仲間の姿を見て刺激され、以前から構想していた牡蠣小屋開設の実現を決心し、その漁師仲間に話を聞いたところ、6次化センターを紹介されました。
6次化センターへの支援希望内容
『自宅に隣接する牡蠣小屋と直売所を開設し、殻付き牡蠣の直接販売ができる体制を整えたい』
千葉さんの相談内容は、
①牡蠣小屋と直売所の開設に活用する助成制度申請書類の作成。
②殻付き牡蠣とオーストラリア式牡蠣養殖法で生産した牡蠣の販売先の確保。
③事業経営のノウハウを学びたい。
ということでした。
千葉さんと6次化センターの取り組み内容
『オーストラリア式牡蠣養殖法への取り組みと、牡蠣小屋と直売所の設置』
干満差が激しい万石浦はオーストラリア式牡蠣養殖法に適した漁場で、漁協などでも試験養殖を行っていました。
しかし、牡蠣の生育が思うように行かず成功例がありませんでしたので、私も独自に生育環境等に工夫をして取り組んでいました。
総合化事業計画の作成では、この新しい養殖方法への取り組みと、牡蠣小屋と直売所の開設を併せた内容であれば新事業として認められるとのことでしたので、6次化センターの支援員の方と打ち合わせを重ね、総合化事業計画(*1)と石巻市6次産業化・地産地消推進助成金(*2)の申請をサポートしていただきました。
また、牡蠣小屋と直売所を開設した後の事業経営のノウハウも学びたいと相談していましたので、石巻市内で行われている創業支援などの講座の紹介もしていただきました。
*1「総合化事業計画」とは
農林水産物等の生産・加工・販売を一体的に行う事業活動を「総合化事業」と
いいます。農林漁業者等が経営の改善を図るために、事業計画を作成し農林
水産大臣に申請し、認定を受けると様々な支援が受けられます。
*2「石巻市6次産業化・地産地消推進助成金」とは
石巻市では、地域資源の高付加価値化を図るため、1次産業・2次産業・3次産
業を営む事業者がネットワークを形成して取り組む事業に対し助成金を交付します。
対象事業は、①新商品開発、②販路開拓、③施設整備 です。
③施設整備については、総合化事業計画の認定を受ける必要があります。
6次産業化に取り組んだ成果
『牡蠣小屋と直売所の開業が間もないため所得の面で成果を感じられるのはこれからだが、牡蠣漁師だからこそ知る美味しい食べ方を伝え、繁盛させたい』
牡蠣小屋と直売所を開業できたばかりですし、自己資金で牡蠣小屋のみの開設を計画していた時よりも建設費が高くなってしまいましたので、所得の面で成果を得られたかと問われるとすぐに「はい」とは答えられません。
補助制度を活用したからこそ、施設整備基準を満たしたしっかりとしたものを建設できたという思いもありますので、経営が軌道に乗ってくれば、成果を感じることができると思います。
牡蠣小屋を開業し牡蠣料理を創意工夫して提供できるようになったので、これから訪れるお客様に牡蠣漁師ならではの美味しい食べ方をどんどん伝えていきたいと考えています。
老若男女問わず多くの方に来ていただきたいのはもちろん、牡蠣の食べ方をよく知らないという若い方には特に来ていただきたいです。
『“漁師が営む飲食店”を開くという夢がかなった。自身が生産する牡蠣だけでなく、地元の漁師仲間から仕入れた魚介類もメニューに取入れ地産地消にも貢献したい』
以前から、漁師が営む飲食店の開業を夢見ており、牡蠣小屋の建設でそれが実現できました。
漁師としての人脈を活用し、私が生産する牡蠣だけでなく地元の漁師仲間から仕入れた魚介類も料理として提供できます。
水揚げ直後に漁師仲間から仕入れることも可能なため、市場で仕入れるよりも鮮度の良い素材を取り揃えられます。
お客様も、漁師が開く飲食店なので間違いなく美味しいだろうという期待が大きいでしょうから、その期待に応えるためにも地元の漁師仲間と連携して地産地消にも取り組み、石巻市のPRになるよう尽力したいです。
牡蠣フライや焼きホタテも楽しめる
6次産業化への取り組みで苦労する点
『総合化事業計画の認定を受けるための経営計画の修正に多くの時間を要した』
牡蠣小屋の建設に向けて施設整備の補助金制度を活用しようと6次化センターに相談しましたところ、事前に総合化事業計画の認定が必要でした。
総合化事業計画の認定を受けるには、経営計画の内容が申請者にとって新しい取り組みであると認められなければなりません。
私の場合、牡蠣小屋の経営計画だけでは認定を受けるのが困難だったため、オーストラリア式牡蠣養殖法による牡蠣の生産も併せて申請する事になりました。
牡蠣小屋と同時に直売所を併設し、殻付き牡蠣の量り売りや地元の漁師仲間から仕入れた魚介類や加工商品などを販売するという計画へ変更したところ、6次産業化に当たると認められました。
今回の取り組みでは、総合化事業計画の修正に多くの時間を要し、牡蠣小屋と直売所の着工が当初の計画より遅れてしまいました。
総合化事業計画の認定と石巻市6次産業化・地産地消推進助成金の申請承認を経たうえでの着工となるので、それを踏まえたスケジュール作成が必要だと感じました。
『石巻地域での成功例がない養殖方法に取り組んだため、結果が見えない不安があった』
オーストラリア式牡蠣養殖法は、石巻地域ではまだ成功例がありませんでした。
水産試験場や漁業協同組合の青年部でもオーストラリア式牡蠣養殖法を取り入れようと養殖試験をしていましたが、牡蠣の特徴を上手く引き出せないでいました。
そこで私は、これまで培ってきた漁師の感を頼りに、独自の方法で試すことにしました。
この養殖方法は、次の牡蠣のシーズンに向けて11月から7月の間に6、7回種牡蠣の成育状況を見極めて選別を行わなくてはなりません。
選別も手間のかかる作業でしたが、養殖技術を確立するのにも困難を伴いました。
私の場合、牡蠣の殻の成長を抑制し、身の成長を促す工夫をすることで、上手く特徴を引き出すことに成功しました。
今まで成功例のなかった養殖技術で結果を出すため、試行錯誤を重ねました。
結果を出すまでの苦労は忘れられませんが、成功し美味しい牡蠣が出来上がったことは生産者としてこれ以上ない幸せです。
販売商品への想い・こだわり
『店名を牡蠣小屋ではなくあえて牡蠣蔵とし、カフェの様な雰囲気作りにこだわった』
店の名前を牡蠣小屋ではなく「牡蠣蔵」としたのは、建設を考えていた当初、自宅に隣接する古い蔵を改装して店舗にしようと考えていたからでした。
もともとDIYが趣味であったこともあり、テントの設営や内装のアレンジを自分で行うことで、理想としていた隠れ家風のカフェを演出することができました。
衛生面を考慮し床は砂利ではなくタイルを敷き詰めましたし、現在はランチ営業だけですが、夜間の営業を見据え照明も設置しました。
従来の牡蠣小屋のイメージを払拭させ、新たな観光スポットとして多くの人に利用していただきたいです。
店内の様子
『オーストラリア式牡蠣養殖法で育てた、エグみの少ないぷりぷりの牡蠣をぜひ味わってほしい』
牡蠣は1日に400リットルもの水を体内に吸い込み、吐き出して生息しています。
オーストラリア式牡蠣養殖法は、潮の満ち引きを利用し海水に浸かったり空気にさらされたりを繰り返し、限りなく自然に近い状態で牡蠣を育てる方法です。
通常の養殖方法で生産される牡蠣に比べて殻がお椀型になり、身も丸みを帯びています。
私が生産する「プレミアム生牡蠣浦助」は、磯臭さがなくぷりぷりとした歯ごたえでありながら、キメが細かいため噛んだ後は口溶けの良い食感を楽しめます。
6次産業化を検討している方々に伝えたいこと
『6次産業化は、一次産業者のやる気次第で収益に結び付けられるため、自ら流通に改革を起こすことができる』
私達一次産業者は、商品流通の最初の段階にいます。
一般的な商品の流通は、私達のような物を作る人、物を仕入れて製造・加工する人、それを売る人を経て消費者へ渡ります。
商品流通前の農水産物を、1次産業者が一気に製造・加工と販売の枠を超え、ダイレクトに消費者へ提供できるようになることが、6次産業化に取組む意義だと私は考えます。
生産することに注力してきた私達ですから、生産した物に関する知識は豊富なので、知識を商品に反映させ消費者へ直接提供できる術を得ることで自ら流通に改革を起こせるのです。
生産から販売まで手がけることが出来ますので、収入増加にも繋がります。
これまでの私の話で、6次産業化に取り組むことには苦労も多々あると感じたかと思いますが、ぜひ生産者自らが積極的に6次産業化に取組み、自身の知識やノウハウを活かしながら地域活性化に貢献していただきたいと思います。
漁師がやっている牡蠣小屋だからこそ提供できる商品やサービスがありますし、それを期待して訪れるお客様へ牡蠣の新たな食べ方を体感していただけるよう、日々新しいアイディアを練りながら取り組んでいきたいと考えています。
1kgまたは食べ放題コースを選び、焼き牡蠣を楽しめる
千葉浩希さん