『石巻地域のニホンミツバチへの理解を広め、地域資源の活用と環境保全に役立てたい』
事例 4
齋藤 雄彌 さん
『石巻地域のニホンミツバチへの理解を広め、地域資源の活用と環境保全に役立てたい』
事業者:齋藤 雄彌 さん (石巻市泉町)
養蜂:平成24年からニホンミツバチの飼育と研究を開始
6次産業化への取組:蜂蜜の加工品製造、養蜂に関する初心者向け勉強会や
実践講習会の開催
取組後の成果:勉強会や講習会の参加者が延べ300名になる。
石巻市内に養蜂とそこから派生する6次産業化を
浸透させたいという思いが市民へ広がりつつある
※石巻市6次産業化・地産地消推進センターを、以下より「6次化センター」と表記いたします。
6次化センターへのご相談のきっかけ
『震災後の石巻地域の荒れた景観を修復させたいと思い、ハマナスの植樹活動を開始。蜜と花粉を求めてやってくるミツバチが、養蜂に取り組むきっかけとなった』
東日本大震災により、石巻市の景観は津波による被害で荒れてしまいました。
その様子を目の当たりにし、荒れてしまった景観を少しでもきれいに戻したいと思い、復興の意味も込めて十三浜にハマナスを植える活動を行いました。
すると、ハマナスの香りに引き寄せられたのか、私の周りをニホンミツバチがついてくるようになったのです。
これがニホンミツバチとの出会いでした。
その後も、ハマナスの蜜と花粉を求めてやってくるミツバチの数が日に日に増えていったので、試しに巣箱を設置したところ、蜂が住まうようになったのです。
これが養蜂をはじめるきっかけとなりました。
ハマナスを植える活動は、6次産業化に取り組むきっかけも与えてくれました。
石巻地域で活動を行っている地域おこしのNPO団体の方から、ハマナスをジャムなどの加工商品に活用したいとお声がけいただいたのです。
そこで、ジャムの製造や販売のノウハウについて6次化センターに相談することになりました。
実際に販売されているハマナスの花びらと実のジャム
6次化センターへの支援希望内容
『自ら講師を務め、地域住民を対象にニホンミツバチや養蜂に関する講演会を開催』
6次化センターへの相談当初は、ハマナスジャムの製造・販売について支援を希望していました。
その件で打ち合わせを行っていた際に、私の飼育するニホンミツバチのハチミツを6次化センターの方に試食していただいたところ、大変興味を示されました。
ニホンミツバチは、セイヨウミツバチより性格が穏やかなため、刺激しない限り人を刺すということはありません。
養蜂は、趣味でニホンミツバチを飼育することから始めても、正しい知識を習得し、技術を磨けば産業化が望めることをお話したところ、6次化センターの方から講演会や研修会を開いてみませんかとの打診を受けました。
かねてから、養蜂を産業として石巻地域に定着させたいという思いがありましたので、快くお受けいたしました。
産業として定着させるには、市民の方々に講座を通してミツバチの生態や養蜂の基本的な理解を深めていただいてから、養蜂の実践方法と技術について伝えていくべきと考えました。
よって、まずは初心者向けの勉強会を開きましょうということで、6次化センターの方と一緒に教材づくりなどに取り組みました。
勉強会出席者の皆さまからの反響がとてもよく、ぜひ実践的な内容の講座も開いてほしいとのことでしたので、来年度の春から参加者自身が養蜂を開始できるようなカリキュラムを組み、現在実践講習会を開催中です。
6次化センターの方のサポートがとても迅速かつ的確でしたので、初心者向け勉強会の終了から期間を空けずに実践講座を開催することができ、とても感謝しております。
講習会の様子
6次産業化に取り組んだ成果
『勉強会参加者の方たちのミツバチに対する認識に変化が起きた』
最初の勉強会で一番取り組んで良かったと感じた点は、ハチに恐怖心を持っていた方の意識に変化が起きたことです。
今までハチを見つけるとすぐに殺虫剤で駆除してしまっていたという方から、「これからは大切に、可愛がりたいです」と話していただいた際は、自ら講師となって勉強会を開いた甲斐があったと感じました。
ミツバチは、草花や樹木の蜜と花粉を集めることが農作物等の受粉にも繋がるため、1次産業者の手助けになる存在であることを、多くの方に認識していただきたいのです。
すべての人にミツバチに関する専門的な知識を習得していただかなくとも、少しでもミツバチの生態に興味を持つ方が増えていくだけで良いのです。
養蜂は、ミツバチの飼育だけではなく、蜜源になる草木や樹木の育成、巣箱の作成、食品加工といった作業があります。
それらを、地域でコミュニティを形成し、役割を分担して取り組む活動が盛んになれば、環境保全、ミツバチの地域資源としての活用に繋がるのではないかと考えています。
『実践講習会参加者の方の、養蜂への関心の高さが感じ取れた』
実践講習会全5回のうち、現在、1回を既に終えました。
参加された方は、これから養蜂を始めたい、すでに始めていたがステップアップを考えている、または養蜂仲間を探しているなど、様々な目的を持っておられました。
皆さん私の話に大変熱心に耳を傾けておられましたし、1回目の実践講習会にも関わらず質疑応答で白熱する場面もありました。
これほどまでに養蜂に関心をもたれている方がいるのだ、と驚きました。
この講習会が、参加された方のコミュニティ形成や、ハチミツ製造の組織立ち上げなどの礎となり、養蜂の産業化・地域活性に繋がればと期待をしております。
私も、参加者の皆さんの熱い思いに応えられるよう、今後も6次化センターの方々と取組を続けたいと考えております。
熱心に聴講する参加者の様子
巣箱の完成品
6次産業化への取り組みで苦労する点
『養蜂を成功させるためには、巣箱を設置した後の管理が重要になる』
これまで私がお話した内容から、養蜂は簡単だと感じられる方が多いと思いますが、実は苦労も多いのです。
ミツバチは巣箱自体や周囲の環境に大変敏感です。
自然の中に巣箱を設置するのですから、周辺には外敵が潜んでいます。
たとえば、ミツバチを誘引するために巣箱の中に蜜蝋を塗るのですが、その甘い香りに害虫たちが寄ってきます。
巣箱の中に蜘蛛の巣が張られただけでもミツバチはそれを嫌いますので、巣箱に入ってしまった蜘蛛などの害虫を取り除くために、定期的に巣箱の板をバーナーで殺菌処理しなければなりません。
また、ミツバチが巣を形成した後も、運んできた花粉のカスや蜜を狙って害虫やクマが襲いに来ます。
これらから巣箱を守るため、定期的な清掃や観察が非常に重要になるのです。
他にも、ミツバチは匂いに敏感なことから、巣箱に使用する木材がカビ臭い場合もミツバチが住み着かない要因となります。
巣箱を製作し蜜源の中に放置しておくだけで、すぐにミツバチが住み着くわけではないのです。
『本格的に養蜂を始めるとなると、資機材の準備に費用がかかる』
養蜂を本格的に始めるとなると、資機材を準備するだけでも20万円前後の費用がかかる場合があります。
ミツバチを飼育するための巣箱や、巣から蜂蜜をしぼるためのこし器、作業を行う際にミツバチをおとなしくさせるための燻煙器など、様々な資機材が必要になります。
また、ミツバチの購入を検討する場合もありますので、資機材の他にも費用が必要となる場合があります。
蜜源に置かれている巣箱
巣箱に形成された巣の様子
販売商品への想い・こだわり
『養蜂の産業化への想いと、6次産業化への活用』
養蜂は、趣味から始めたとしても、しっかりとした技術を習得すれば産業になります。
蜂蜜採取だけが養蜂ではなく、巣箱を製作する、蜜源植物を栽培する、蜜を瓶詰めする、蜜を加工・販売するといった多種多様な作業があります。
これらをいろいろな能力をもった各産業の事業者の方や、地域住民の方たちで協力して行うことが、6次産業化または農・商・工の連携に繋がるのです。
私は、石巻には蜜源植物や雑木林が少ないと感じます。地域の方々が蜜源植物等の植栽をコミュニティづくりのためにスタートし、併せて環境保全の活発化に繋がってほしいと思います。
ニホンミツバチは、トチの木、キハダ、ニセアカシアの花を好みます。里山の一層の付加価値を高めることも可能と思います。
『食品の加工に蜂蜜を少し加えるだけで、その加工品に更なる付加価値を与える』
蜂蜜を活用した商品といえば、蜜蝋、ミード酒、化粧品、サプリメントと様々なものがあり、6次産業化によってこうした商品の開発が石巻でも盛んに行われることが私の願いでもあります。
講習会活動の他にも、私の飼育するニホンミツバチの蜂蜜を活用したワインの開発などを6次化センターのサポートを受けながら進めて行きたいと考えています。
現在6次化センターとの取り組みの他に、ミツバチの蜂蜜量産化や蜂蜜の加工食品への活用の可能性について研究を行っています。
セイヨウミツバチよりもニホンミツバチの蜂蜜の方が取引価格が高いということだけでなく、研究仲間からはニホンミツバチの蜂蜜は焼き魚の照りを際立たせる、和菓子のふんわり感を増すなどの報告を受けております。
ニホンミツバチの蜂蜜は、加工食品に付加価値を与える可能性を持つということです。6次産業化の取り組みとして蜂蜜を添加した商品の開発も行っていきたいと思います。
6次産業化を検討している方々に伝えたいこと
『6次産業化は、産業間の垣根を超える良い手段になる』
ニホンミツバチ養蜂の産業化への関わり方をもっと多くの人に知ってもらえるよう、今後も6次化センターの方々と共に活動していきたいと考えています。
ニホンミツバチの働き方、関わり方を多くの方に知っていただけるよう、これからも活動してまいります。
私は6次産業化を、産業間の垣根をうまく超える良い手段だと考えています。
1次、2次、3次産業者が個々に専門分野に集中することも良いことですが、お互いの技術の活用の仕方・工夫を考えるべきだと私は思います。
養蜂についても、農業に始まり農業に終わるのではもったいないのです。
最終的には商業に発展させるべきだと考えます。
例えばの話ですが、産業の垣根を超えて養蜂者の皆さんと産業を営む皆さんが連携し、効率的な農作物生産に取り組めるような仕組みが生まれれば、大変素晴らしいことだと思います。