『自社農園で生産している米・野菜を使用した新しい加工商品の開発を行いたい。また、新商品の製造・販売を軌道に乗せ、農業経営の安定化と地域の雇用創出を行いたい。』
事例 2
株式会社 深谷農産
佐藤 仁美 さん
『自社農園で生産している米・野菜を使用した新しい加工商品の開発を行いたい。また、新商品の製造・販売を軌道に乗せ、農業経営の安定化と地域の雇用創出を行いたい。』
事業者:佐藤 仁美 さん (石巻市広渕)
農家:水稲、じゃがいも、さつまいも、自然薯、かぼちゃ、
白菜、大根、トマト
(その他に、季節ごとに5~10品目を栽培)
主な販売先:JAいしのまき直売所、直販
6次産業化への取組:加工品製造、販売 「ラルジュ ラッシュ」
(菓子、惣菜類)
取組後の成果:加工品売上額 米と加工品の販売額を合わせると、
売上額が3.5倍以上になる。
※石巻市6次産業化・地産地消推進センターを以下より「6次化センター」と表記いたします。
6次化センターへのご相談のきっかけ
『東日本大震災からの復興の担い手となるべく、事業規模の拡大を行い地域の活性化や雇用創出に役立ちたい』
元々、私の実家は農家でしたが、私自身はサラリーマンをしていました。
会議ばかりの仕事に疑問を抱くようになっていたことと、親が高齢になってしまったことを考え、50代を前にして農家を継ぐことを決意しました。
当初は、地域の荒れた農地を整備した『市民農園』の管理がメインで、私は家業の米作りなどを少しずつやっていければいいなと思う程度でした。
しかし、すぐに東日本大震災が起き、石巻市も甚大な被害を受け、皆、日々生きるのに精一杯になりました。
私がやっている農園も、趣味ではすまされないという気持ちになり、農業に専念し事業拡大を行い、復興の担い手にならなければならないと思いました。
そのためには、生産面積を増やすこと、野菜の生産品目を増やすこと、販路拡大をすることなど課題が多くあったので、事業計画をたてる必要性を感じ相談先を探していたところ、石巻市のホームページで、6次化センターの存在を知りました。
耕作放棄地を復旧させ活用している
6次化センターへの支援希望内容
『事業規模拡大のため、事業計画策定のサポートを行ってほしい』
佐藤さんの相談内容は、
①事業計画作成をサポートしてほしい。
②新規創業や商品ブランド設立に活用できる補助金制度を知りたい。
③加工商品製造所を建設したい。
ということでした。
佐藤さんと6次化センターの取り組み内容
『総合化事業計画(*1)の作成、加工所建設や加工品のブランディング』
6次産業化に取り組み、事業規模を拡大するため、平成27年3月に総合化事業計画の申請を行い、平成27年5月に認定をいただきました。
総合化事業計画の作成では、6次化センターの支援員の方に、事業の未来像や内容の記入についてアドバイスを受けました。
総合化事業計画の認定を受けた後、加工所建設や、加工品のブランディングに活用できる補助制度の申請を行いました。
加工所の建設には、建設費や加工設備の購入費の負担軽減のため石巻市6次産業化・地産地消推進助成金(*2)を活用し、平成27年8月末日に建設が完了しました。
加工品のブランディングには、石巻市創業支援補助制度(*3)を活用しました。
申請に必要な3年間の事業計画書の作成で、売上予測や経費予測の修正に多くの時間を取られはしましたが、創業時にかかる費用のことを考えると6次化センターの支援員の方にサポートをお願いし共に最後まで取り組めて良かったと思っています。
おかげ様で、Large Lalac(ラルジュラッシュ)という加工品ブランドを立ち上げることができました。Large Lalacはフランス語で“広い湖(広渕)“を意味します。
私達一次産業者の6次産業化の取り組みが、石巻市広渕をはじめ、他地域に広がり、地域の活性化につながってほしいという思いを込めています。
*1「総合化事業計画」とは
農林水産物等の生産・加工・販売を一体的に行う事業活動を「総合化事業」といいます。農林漁業者等が経営の改善を図るために、事業計画を作成し農林水産大臣に申請し、認定を受けると様々な支援が受けられます。
*2「石巻市6次産業化・地産地消推進助成金」とは
石巻市では、地域資源の高付加価値化を図るため、1次産業・2次産業・3次産業を営む事業者がネットワークを形成して取り組む事業に対し助成金を交付します。対象事業は、①新商品開発、②販路開拓、③施設整備 です。③施設整備については、総合化事業計画の認定を受ける必要があります。
*3「石巻市創業支援補助制度」とは
石巻市の産業の活性化と、雇用確保を目的とした補助金です。石巻市で新規創業を行う事業者、中小企業者等が、代表者の世代交代を機に業態転換や新分野進出に取組む第二創業を行う事業者が対象となります。
6次産業化に取り組んだ成果
『6次産業化は、農産物PRのための最適なツール』
農産物は工業製品ではないため、規格通りのものを常に100%生産できるわけではありません。
傷ついたようなものや規格外品が生産過程で出てきてしまいます。
それらに付加価値を付けるのが加工であって、農産物そのもののPRの手段となるのです。
加工所の建設によって自身でいつでも加工品製造が可能になりました。
自分で生産した野菜を使い、手作りの加工品に仕上げる中で、食べる方のニーズに合わせて甘さの加減や材料の選定もできるといったメリットが生まれました。
また、6次産業化を「農産物PRのツール」として考えると、商品開発時のターゲット設定も容易になりました。
例えば、紫芋チーズケーキは、私の生産した紫芋をもっと女性に知ってもらうためのツールとして考案しました。
こういう知恵や発想が6次産業化をスタートさせるきっかけとなるのです。
このような活動を積み重ねたおかげか、今では加工商品に含まれる農産物だけでなく、他に生産している米などにも興味を持ち、購入してくださる方が増えてきました。
『短時間でも働ける雇用体制を組めるようになった』
事業規模拡大を行えば、当然人手が必要になってきます。私一人だけでは手が回りません。
お子さんが小さくて、働ける時間が限られる若いお母さんや、定年退職をされても働く意欲を持っている方たちが周りにたくさんいらっしゃいました。
しかしながら、働きたい気持ちは強いけれども、時間に制限があり中々働きに行けないという方が多かったのです。
そうした悩みを持った方たちを雇用し、地域の活性化に繋げたいと考えました。
農業は、気候や天気に左右されるものの、晴れてさえいればスケジュールを組むことができます。
お互いの限られた時間の隙間を補い合いながら働ける仕組みをつくることができました。
また、加工所を建設したおかげで農業閑散期の真冬でも畑でとれた野菜を使ってお菓子を製造できるようになりました。
農業ができない時期でも収入があり、働きたいけど土いじりはちょっと・・・という方にも、製菓や販売など他の分野で就労できる場も生まれました。
6次化への取り組みで苦労する点
『事業計画や新しい商品案の構想作りに苦戦した』
総合化事業計画を作成するにあたって、その当時私が行っている事業と、これから始めたい事業の整理が必要でした。
6次化センターの支援員の方との打ち合わせは、農作業の合間を縫って多くの時間を確保しなければならないので大変でした。
また、野菜の加工品開発に対して多くのアイデアが浮かんでいたのですが、こちらも整理が必要でした。
作りたい商品が必ずしも売れるとは限らないため、市場ニーズを踏まえた商品開発を計画しなければならなかったのです。
6次化センターの支援員の方から、加工商品開発事例を基にした商品開発プロセスや、マーケティングの基本についてアドバイスを受けました。
アドバイスを受けたことで、市場ニーズを取り入れながら、自分たちの想いや価値観を形にした商品開発を行えるようになりましたし、それが商品の差別化にも繋がったと考えています。
販売商品への想い・こだわり
『素材の味を引き出す商品づくりにこだわりを』
私は、シェフやパティシエなどの料理の専門家ではありません。
ですが、提供する商品は、素材や味にこだわりを持って開発するよう心がけています。
穀物や野菜の見た目を大きく変えた、見栄えの良い商品のほうが、消費者の方の目を引きやすいでしょう。
ですが、私が加工品開発時にこだわっていることは、素材そのものの「味」を引き出すことです。
消費者の方の視覚に訴えるのではなく、素材の味を前に出し、味覚に訴えた商品づくりを大切にしています。
食べているのはお菓子ですが、そのお菓子に使用されている野菜そのものの味を、食べた人に分かってほしいのです。
野菜そのものにも、関心を抱かれる商品づくりを目指しています。
野菜そのものの味にこだわったパウンドケーキの試作品
6次産業化を検討している方々に伝えたいこと
『これからの食育、農業の振興につなげるきっかけにしていきたい』
6次産業化に取組む上で大切にしていることは、商品を手にとっていただいた方に、加工品に使用している原材料に興味を持ってもらうことです。
「この加工品にはどの野菜を使用しているのだろう」とか、「この加工品に使用されている野菜を食べてみたい」と思われることが、一次産業者にとって一番大切なことだと考えています。
原材料に興味を持っていただくことから、農業自体にも興味を持っていただくことに繋げて行きたいのです。
農産物ができるまでの話を聞かれ、伝える毎に感動が生まれることが6次産業化の意義だと思います。
そうした方々へ、農業の大変なところも、いいところも余すことなく伝えていくことが食育や農業の振興に繋がるのではないかと私は考えます。
農業者として、知恵や技術の集大成である農業という産業を、消費者に正しく伝えていかなければならないと私は思います。