『自宅敷地内に加工所を建設し、生産する野菜を使用した惣菜や菓子の商品開発・製造を行いたい』
事例 3
キッチン やっこ
三浦 やす子 さん
『自宅敷地内に加工所を建設し、生産する野菜を使用した惣菜や菓子の商品開発・製造を行いたい』
事業者:三浦 やす子 さん (石巻市須江)
農家:きゅうり、トマト、オクラ、かぼちゃ
主な販売先:JAいしのまき直売所(取組前は野菜出荷のみ)
6次産業化への取組:加工品製造、販売 「キッチン・やっこ」
(惣菜、菓子類)
取組後の成果:加工品売上額 自宅敷地内へ加工所を建設後、
売上額が2倍以上になる。
(野菜出荷と加工品販売を合わせて)
※石巻市6次産業化・地産地消推進センターを以下より「6次化センター」と表記いたします。
6次化センターへのご相談のきっかけ
『未利用野菜等を使用した加工商品を販売し、農家としての経営安定化を図りたい』
野菜の出荷は行っていましたが、加工品の製造・販売は行っていませんでした。
加工品の製造に興味を持ち始めたのは、“廃棄しなければならない野菜”の利用方法を模索していたからでした。
また、以前より自家製のもち米を使用して、冬場に切り餅の製造・販売を行っていましたので、餅製品のバリエーションを増やしたいという願いもありました。
自宅敷地内へ加工所を設置することで、これらの課題を解決できると思い、相談しました。
6次化センターへの支援希望内容
『自宅に加工所の設置と、初めて取り組む商品づくりのノウハウを教えてほしい』
三浦さんの相談内容は、
①自宅に加工所を設置したい
②施設整備に利用できる補助金を知りたい
③野菜の加工は初めての取り組みのため、商品づくりの技術を教えてほしい
ということでした。
三浦さんと6次化センターの取り組み内容
『総合化事業計画(*1)の作成、商品開発』
総合化事業計画作成のため、平成28年4月から6次化センターの支援員の方々と何度も打ち合わせを重ねました。
農政局に計画書を提出後も、販売先確保の計画等、何度も指摘を受けました。
その度に6次化センターの支援員の方々が丁寧に話を聞いてくださり、計画の修正を手伝っていただいたので、大変心強かったです。
農林水産省から、総合化事業計画の認定を受けたのが、平成28年7月末でした。
その後、石巻市6次産業化・地産地消推進助成金(*2)の申請を平成28年8月初旬に行い、その月の下旬に決定通知をいただきました。
加工所の建設が始まったのは平成28年9月です。
加工所建設を検討していた当初、自己資金での建設も視野に入れていました。
その段階で建設を実行していれば、加工所の設置完了がもっと早かったとは思いますが、建設費の償却を考えると、助成金を受けられたことで、資金負担も軽減され、とても感謝しております。
加工所の建設の他にも、6次化センターのサポートを受けました。
加工商品の製造は初めての取組でしたので、JAいしのまきと6次化センターの共催する「商品開発セミナー」にも参加しました。
セミナーでは、品質管理や衛生管理等の基礎、商品加工の技術も試作を通して学ぶことができました。
今後、加工商品を考案する際に、応用できる知識を身につけることができました。
*1「総合化事業計画」とは
農林水産物等の生産・加工・販売を一体的に行う事業活動を「総合化事業」といいます。農林漁業者等が経営の改善を図るために、事業計画を作成し農林水産大臣に申請し、認定を受けると様々な支援が受けられます。
*2「石巻市6次産業化・地産地消推進助成金」とは
石巻市では、地域資源の高付加価値化を図るため、1次産業・2次産業・3次産業を営む事業者がネットワークを形成して取り組む事業に対し助成金を交付します。対象事業は、①新商品開発、②販路開拓、③施設整備 です。③施設整備については、総合化事業計画の認定を受ける必要があります。
加工所の外観
加工所の内部
6次産業化に取り組んだ成果
『これまでには価値がないと思っていた野菜にも価値が生まれた』
加工所の設置による一番大きな成果は、規格外品などの廃棄しなければならない野菜を、加工し新たな価値を生む商品とすることができたことです。
また、保健所の営業許可を受けずに加工ができた切り餅ばかりでなく、保健所の営業許可を受けたことにより草餅やおはぎ等への加工もできるようになりました。
野菜の出荷が少ない冬場に、餅の加工品を製造する選択肢が増え、一年を通した収入の安定につながるのではないかと期待しています。
『加工が行えることで販売先や売上が増えた』
新たに販売先(直売所)を増やしたいと考えた時、生鮮野菜だけでは受け入れを断られることも多々ありました。
加工所の設置後、野菜を加工品として出荷できるようになると、野菜も加工品も受け入れ許可をいただきやすくなリました。
野菜の加工を行えることが、商品に付加価値を与え、販路の拡大手段になり、売上増加にも効果があったと実感しています。
6次産業化への取り組みで苦労する点
『加工所設置が当初の計画より遅れたことで、加工する商品が変更になった』
当初、加工所の建設完了を、平成28年7月頃に予定していました。
総合化事業計画の作成過程で、農政局との調整等に時間を要し、石巻市6次産業化地産地消推進助成金による加工所建設着工が遅れました。
建設が完了したのは、平成28年12月初めでした。
保健所の営業許可を得るのにも時間がかかり、加工所として利用できるようになったのは平成28年12月末でした。
事業計画で考えていた商品は、夏野菜の収穫時期に合わせた加工品だったので、計画通りの商品を加工できなくなりました。
計画とは異なり、急きょ切り餅を使って草餅やおはぎ等の加工を行うことになりました。
しかし、販売先では餅の加工品が反響を呼び、売り切れが続出する日々となっています。
この経験は、季節性を考慮した商品や、野菜以外の加工商品を考えるきっかけになりました。
この他にも、加工所設置後、実際に商品を製造しないと分からない課題に直面しました。
夏場にゼリーを加工しようと考えていましたが、暑さで溶けてしまうことが分かリ、寒天製品に切替えることになりました。
しかし、野菜を使用したサラダ寒天やトマトのデザート風寒天等の、工夫した商品を考えるきっかけとなり、結果として満足しています。
計画していたトマトゼリー
改良後、完成したサラダ寒天
『すべて自分の手で作業を行わなくてはならないため時間との勝負になる』
野菜の収穫・袋詰・出荷も全て自分で行わなければなりません。
その作業の合間に、商品の加工を行わなければならないのです。
加工所の設置が完了して、これから初めての夏場を迎えるのですが、冬場とは違い、野菜の定植から出荷までの作業に時間を取られてしまうので、どれだけ加工に手を回せるかわからない不安を抱えています。
そのためにも、加工にあまり時間のかからない商品の考案を行う等対策を講じる必要があると感じています。
販売商品への想い・こだわり
『農家だからこそつくりだせる味がある』
加工商品の原材料選びから、製造までを全て自分が行えるようになりました。
「農家の思いがつまった商品づくり」にこだわり、食品添加物を使わず、昔ながらの手作りの味を表現しています。
農家だからわかる、野菜そのものの味を引き出す味付けを心がけています。
加工品を製造できるようになると、目新しい商品の開発に力を入れたいと考える事業者は多いと思います。
しかし、私は一次産業者ですので、これからも農業を中心に活動したいと考えています。
加工品においては、使う野菜をできるだけそのままに、「家庭の味」を大切にした商品づくりを行っていきます。
6次産業化を検討している方々に伝えたいこと
『農産物の付加化価値の向上によって商品が売れることは、どんなに大変な状況でも励みになる』
生産・加工・販売を全て一人で行うということは、やはり肉体的にも精神的にも大変なことだとわかりました。
しかし、自宅敷地内に加工所があることで、家事や農作業の合間にも商品の加工作業を行うことができるようになりました。
他の加工施設を借りて行うとなると、できなかったことだと思います。
加工所の設置は費用がかかりますが、野菜の出荷で忙しい中であっても合間を縫って、商品の加工も行えているので、取り組んでよかったと感じています。
毎日が忙しくても、自分の商品を待ってくれている方のことを思うと、新しい商品開発にも意欲が湧いてきます。
しかし、いくつもの新しい商品案をひらめいても、商品化できていないのが現状です。
野菜の生産と加工作業の両立が、軌道に乗るようになれば、新商品の製造にチャレンジしていきたいと考えています。